大阪地方裁判所 平成7年(行ウ)59号 判決
原告
川西正恵(X1)
同
高橋弘子(X2)
同
東瀬幸枝(X3)
同
平田すみ子(X4)
同
宮島公子(X5)
同
宮島記代美(X6)
同
三宅栄(X7)
同
福井艶子(X8)
同
梅木松子(X9)
原告ら訴訟代理人弁護士
吉川法生
同
辻公雄
被告
(大阪市民生局長) 足立公夫(Y1)
同
(大阪市民生局長) 香山博(Y2)
右二名訴訟代理人弁護士
田中義則
被告
社会福祉法人都島友の会(Y3)
右代表者理事
仲田貞子
右訴訟代理人弁護士
谷池洋
同
木内道祥
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 本案前の抗弁について
1 原告東瀬ら二名の監査請求前置の有無について
本件全証拠によるも、原告東瀬ら二名が、本件各支出について監査請求をしたと認めるには足りない。したがって、原告東瀬ら二名の本件訴えは、監査請求前置の要件を満たしておらず、不適法である。
2 原告川西ら七名の「正当な理由」の有無について
(一) 前記第二の一2、3記載のとおり、本件平成四、五年度の支出は平成六年三月一七日までになされたものであるところ、原告川西ら七名の監査請求は、その後一年以上が経過した平成七年四月一八日に申し立てられたものである。
(二) 正当事由について
原告川西ら七名は、本件四、五年度の支出が違法になされていたことは相当な注意力をもって調査しても知り得なかった旨主張するが、本件全証拠によるもこれを認めるには足りない。
かえって、前記第二の一記載の事実及び弁論の全趣旨によれば、本件平成四、五年度の支出は、児童福祉法五一条一号の二に基づく措置費、地方自治法二三二条の二に基づく補助金であって、平成四、五年度の一般会計予算に計上され、措置費については国庫負担金交付基準第三の交付基準により、施設長の給与に当てられるべき補助金は民給補助金交付要綱四条の、保育所の嘱託医に当てられるべき補助金は運営補助金交付要綱五条の大阪市民生局長の定める各基準により、それぞれ支出されたものであることが認められるのであって、右事実によれば、これらの各支出は、住民に秘密裏のうちになされたものではなく、原告川西ら七名が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて右支出等を知ることができたというべきであるから、地方自治法二四二条二項ただし書の「正当な理由」があるとはいえない。
(三) したがって、原告川西ら七名の訴えのうち、本件平成四、五年度の支出に関する部分は、監査請求前置の要件を満たしておらず、不適法である。
二 本件平成六年度の支出の違法性について
1 〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
(一) 第一センターの定員数は、設置認可のあった昭和四一年六月一〇日から六〇名、同年八月一日から九〇名、平成四年四月一日から六〇名であり、第二センターの定員数は設置許可のあった昭和四八年五月一日から六〇名である。両センターとも三歳未満児を対象とする乳幼児専門の保育所として設置認可され、都島福祉事務所長は、両センターに対し、それぞれ〇歳から二歳までの乳幼児を入所措置していた。平成六年四月一日現在の措置児童数は、第一センターが四〇名、第二センターが五〇名、職員数は、第一センターが一四名(施設長一名、保母一一名、調理員二名)、第二センターが一九名(施設長一名、主任保母一名、保母一四名、調理員三名)であった。
(二) 被告友の会は、大阪市長宛で、第一センターについては平成五年四月一日から訴外柳瀬さよ子(以下「柳瀬」という。)が、第二センターについては平成四年四月一日から訴外村上幸子(以下「村上」という。)が、それぞれの施設長に就任したとして、各施設長の変更承認及び所長設置保育単価適用申請をした。
(三) 被告友の会は、平成六年度の運営補助金交付申請において、第一、第二センターそれぞれについて、嘱託医手当にかかる分として年額一四万一五六〇円を各申請し、これを受けて、被告足立は、第一、第二センターそれぞれについて、平成六年五月九日付で嘱託医手当にかかる運営補助金として一四万一五六〇円の各交付決定をし、また、嘱託医手当にかかる措置費として一七万〇〇四〇円(一三〇八〇円×一三回)の各支出決定をし、その後、大阪市から、第一、第二センターごとに、右運営補助金及び嘱託医手当にかかる措置費が各支出された。
(四) 被告友の会は、第一、第二センターそれぞれについて、それぞれ施設長一人が設置されているなどと報告したうえ、民給補助金の各交付申請をし、これを受けて、被告足立は、第一、第二センターそれぞれについて、平成六年四月一四日付で民給補助金の各交付決定をし、また、大阪市から、第一、第二センターごとに右各保育所に対し、右民給補助金及び人件費にかかる措置費が各支出された。
(五) 被告友の会は、第一、第二センターそれぞれについて、平成六年度予算の編成及び執行、経理処理をし、大阪市長宛に各補助金精算報告を提出するなどした。
2 第一、第二センターの運営実態について
〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
(一) 設置認可以降、第一センターは、その所在地にある建物の一階部分(大阪市都島区都島本通三丁目二四七番地所在、家屋番号都島本通三丁目二二番一、種類保育所、構造鉄筋コンクリート造一階建、床面積六一四・八五平方メートル)で設置運営され、第二センターは、その所在地にある建物の主として二階部分(大阪市都島区都島本通三丁目二四五番地四、二四五番地三、二四七番地所在、家屋番号都島本通三丁目二四五番四の二、種類保育所、構造鉄筋コンクリート造四階建、床面積一階部分一三〇・二六平方メートル、二階部分三六〇・八九平方メートル、三階部分二六・八三平方メートル、四階部分二七・四〇平方メートル)で設置運営されてきた。両センターの建物の位置関係及び平成六年度の保育室等の部屋割り及び連絡通路の状況は、別紙園舎見取図のとおりである。
(二) 平成三年度までは、第一、第二センター間で、児童の持ち物の種類、購入方法、行事の内容、保育日誌や連絡ノートの記載内容、保育時間等の保育内容に差異があり、また、保母等の勤務体制にも差異があり、他方、第一、第二センター間で運動会等いくつかの行事を共同で実施する、あるいは、同時開催をする、日常的にも交流保育をする、保育施設・用具を利用し合う(調理場は共通であった)などの交流がなされていた。また、第一センターの施設長は、予算編成、保母等の出勤状態の把握、施設の点検、児童の検診、保母の指導、援助等をしていた。なお、具体的な予算案の作成や勤務状態の集計は、被告友の会の事務局が担当していた。
(三) 被告友の会は、平成六年度においては、第一、第二センターの措置児童のうち、〇歳児及び低月齢の一歳児を第一センターで保育し、高月齢の一歳児及び二歳児を第二センターで保育し、これに伴い一部の保母に配属先の保育所とは別の保育所で保育に当たらせ、また、保育内容を同一のものとした。
さらに、被告友の会は、平成四年度以降、第一、第二センターの各施設長の業務のうち、予算編成とその執行、補助金及び措置費の申請、施設管理等の管理的業務を第一センターの施設長である柳瀬に担当させ、年間行事計画の作成、保母の勤務状態の把握、施設の点検、現場での保育(行事の確認、検診等)、保母等の職員の指導、保護者への対応、広報等の保育現場の運営的業務を第二センターの施設長である村上に担当させることとして、右各施設長に両施設の施設長としての業務を分担させたうえ、柳瀬の執務場所を被告友の会の事務所のある都島保育所の建物(大阪市都島区都島本通三丁目一六番八号所在。第一、第二センターから約一五〇メートル離れている。)内としており、この状態は平成七年一月初旬頃まで続いた。
また、被告友の会は、保護者等へ配付する保育園のしおり、年賀状、挨拶状、看板等では、第一、第二センターを区別することなく、第一センター名とその電話番号のみを、施設長として村上の氏名のみを記載するなどし、また、都島区各種団体役員名簿においては、第一、第二センターの園長として村上の氏名を掲載させた。
なお、保母や調理員数に変更はなく、最低基準以上の水準が維持されていた。
(四)右のような、第一、第二センターの運営形態の変更は、平成四年度からなされたものであるが(なお、平成四、五年度は、〇歳児及び一歳児が第一センターで保育されていた。)、これは、<1>安全上の配慮、すなわち、以前近隣でぼや騒ぎがあったことから、歩行できない〇歳児及び低月齢の一歳児を一階の第一センターで、歩行できる高月齢の一歳児及び二歳児を二階の第二センターで保育した方が、避難誘導上安全であるなどと考えたこと、<2>両センターの保育内容の統一及び保育設備等の相互利用による処遇の向上、運営の円滑化を目指した、すなわち、両センターの設置運営主体が同一であるうえ、建物が隣接しているので、保育内容を統一すると保育所運営の効率化が図れること、逆に保育内容が異なると、兄弟が異なる保育所に措置された場合に保護者に不必要な負担や混乱をもたらす虞や、保護者が第一、第二センターへの入所申請を控える虞があり、さらに、保母等職員にも負担がかかること、保育設備等の相互利用等により物的側面での充実を図ることができ、処遇の向上になると考えたことに基づくものであった。
また、施設長の業務分担は、右のような保育所運営の円滑化等や予算執行等の業務の効率化を目指したことにより実施されたものであった。
被告友の会は、右のような運営形態の変更は、保育所設置者である被告友の会の裁量権の範囲内の事柄と考えて、民政局等に対し、報告等適正な手続を取ってはいなかった。
(五) 平成七年一月九日、当時の民政局保育部企画課長代理の訴外三歩一雄次は、被告友の会の理事長訴外仲田貞子及び常務理事訴外渡久地から、第一、第二センターの運営形態について事情聴取したうえ、前記(三)のような運営形態は市民や保護者から誤解を招き、好ましくないとして、口頭による是正指導を行った。その内容は、施設長の業務分担の速やかな解消と、保育場所については、年度途中での変更は措置児童に負担となることから、平成七年度からの入所措置どおりの実施であった。
その結果、施設長の業務分担については、平成七年一月初旬から解消され、第一、第二センターで、それぞれの施設長が、それぞれの保育所の管理及び運営の両業務を行うこととなり、保育場所については、平成六年度中は現状がそのまま維持され、平成七年度から、措置児童は、入所措置された各保育所において保育されることとなった。
(六) 施設長の業務については、法令上明確な定義はなされていないが、保育所の管理運営全般を統括する者と理解されており、厚生省、日本保育協会等主催の平成八年度保育所主任保母(初任者指導保母)研修会テキストによれば、保育所長(施設長>の業務内容は、労務管理(人事、勤務体制の決定、出勤状況・体暇承認等の服務規定に関する調整指導、職員の健康管理)、運営管理(事業計画、予算編成及び執行、施設管理計画及び整備、年間事業計画の作成、家庭との連携等)、渉外活動(広報活動等)、研修活動とされている。これに対し、主任保母の業務内容は、園長補佐、日々の業務上の連絡・関係調整、保育計画・指導計画の立案指導、保育実務の指導、保育備品の管理、保育用品の購入・企画・調整等とされ、また、保母の業務内容は、保育実務、保育・指導計画作成、環境整備(保育用品・遊具の管理・点検、健康安全管理)諸記録の作成(保育日誌等)等とされている。
(七) 第二センターの設置認可に際しては、昭和四〇年代後半の地域の保育需要の増大、保育所定員の拡大要求に対応するため、第一センターの定員数(当時九〇名)を増加することも考えられたが、定員数を増加すると職員数も増加することから人事管理面で保育所の十分な管理運営が期しがたいこと、大規模定員の乳幼児専門保育所では、保育に通常の場合にも増して保母の目配りが求められることから、適当ではないとして、第二センター(定員数六〇名)が独立施設として設置認可された経緯がある。第一センターの定員数が減少していた平成六年度においても、第一、第二センターをひとつの保育所とした定員規模で運営することは適当ではないと、民生局は考えていた。
3 以上のとおりであって、措置費は、保育所ごとに支出(支弁)され、施設長の設置の有無により支出額が異なり、嘱託医手当にかかる運営補助金も保育所ごとに交付され、施設長の給与にかかる民給補助金も保育所ごとに交付され、施設長の有無により交付額が異なる結果となるものであるところ、平成六年度の第一、第二センターにおいては、措置児童の保育場所の変更及び各施設長の業務分担等の事実が認められるが、第一、第二センターは、別個の保育所として存在し、施設長もそれぞれ設置されていたのであるから、本件平成六年度の支出にかかる被告友の会の報告等に虚偽はなく、被告足立の交付決定及び支出決定は適法であり、したがって、本件平成六年度の支出に違法性は認められない。
すなわち、第一、第二センターは、別個に設置認可された保育所であり、措置費及び補助金を含む予算編成及び執行、経理処理は別個にされ、施設設備等を別個に有し、施設長を含む職員の配属数等も最底基準を充足し、また、各補助金の交付申請等で報告されたとおりであったのであるから、右側面を無視して、措置児童の保育場所の変更及び施設長の業務分担といった、保育所の運営方法として相当とはいえなかった側面のみを取り出して、第一、第二センターの実体はひとつの保育所であったと評価することはできない。
また、原告らは、柳瀬は施設長としての業務を全くしていなかった旨主張し、これに沿う証拠(甲一八、原告東瀬)もあるが、甲一八は作成者及び文意が明らかではなく、また、原告東瀬の供述部分は、平成五年五月頃は柳瀬が旧関西主婦連合会の活動をしていたというに止まり、いずれも採用できない。他に柳瀬が施設長としての業務をしていなかったと認めるに足りる証拠はない。さらに、前記2(六)記載の施設長の保育所の運営管理の統括という業務内容からすれば、柳瀬が、第一センターの保育現場を離れて、主として第一、第二センターの管理業務を行っていたからといって、村上との業務分担を前提とする限り(その業務分担の相当性はおくとして)、右のような業務の担当者が施設長に該当しないとはいえない。
4 よって、本件平成六年度の支出は違法になされたものとはいえないから、その余の点について判断するまでもなく、原告川西ら七名の請求は理由がない。
(裁判長裁判官 鳥越健治 裁判官 戸田彰子 出口尚子)